『新たな生のほうへ 1978-1980 ロラン・バルト著作集10』石川美子訳、みすず書房
ブログのサブタイトルを変えたので、最初にそれについて触れておく。
サブタイトル「人はつねに愛するものを語りそこなう」は、バルトの遺稿のタイトルである。原稿はほぼ完成していて、タイプライターで浄書された一枚が机上に残されていたそうである。
その一枚の浄書を書き終えた直後にバルトは交通事故に遭い、約一ヶ月後にこの世を去った。
私がこの一文を知ったのは出版ダイジェストから毎月送られてきていたフリーペーパー(ご存じの方も多いだろう)によるのであるが、それを紛失してしまったので正確なことが分からなくなってしまった。が、白水社のサイトにそれを見つけたので、そちら(「ロラン・バルトの旅」石川美子、出版ダイジェスト「白水社の本棚1999年4・5月号」。ただしPDF形式なので注意)を参照していただきたい。著作権(翻訳権?)の問題もあるので明らかにしておきたい。
実は、このタイトルを付けられた文章がバルトのどの本に収められているのか調べてもよく分からないので、もしご存じの方は教えて頂きたい。
さて、本書というかこの著作集は、これまで単行本として出版されなかったバルトの評論、インタビューなどを集めたもので(一部例外あり)、2002年にスイユ社から出版されたものを底本としている。
邦訳するに当たって重複する箇所などいろいろ複雑な事情があったようで、作業はかなり困難なものとなったようである(それについては本書巻頭を参照)
いままでにバルトの単行本はほとんどが邦訳されているので、この全集が全巻揃えば、現存するバルトのテクストが事実上すべて揃うことになる(そのほかに本国では晩年の「講義録」も出版されたと聞くので、こちらも邦訳をぜひお願いしたい)。喜ばしいことである。というか、素直に嬉しくてたまらない。
で、本書第10巻は、バルトの最晩年三年間のテクスト化されたものを集めたものである。そこには単行本と違った、バルトの「肉声」を聞き取れるような錯覚を起こさせるものも少なくない(あるいは錯覚ではないのかもしれない)。
内容に関しては、専門家でも何でもないそれこそただの「読者」に過ぎない私に何も言えることはないが、読んでいる間、それこそ時間を忘れて至福の時を過ごすことができた、ということを言い添えておいてもいいかもしれない。それはバルトのテクスト(誤解を恐れずに言えば「文体」)が人を魅了して止まないある種の「秘密」と密接に関係しているように、私には思われる。
本全集の唯一の「欠点」は、価格が高いことである……貧乏な私は、それこそ食費や医療費を節約して買わなければならないかもしれない、ということである。でも、そのくらいバルトが好きなのだから、仕方がない。たとえ、書いてあることの一、二割しか理解できていないとしても。
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