華氏911
見終えたとき、激怒していた。でもタランティーノの言葉も理解できた。全くその通りだ。
たぶんすでに多くの人が優れたレビューを書いていると思うので、私は最小限にとどめようと思う。どうせたいしたことは書けないし。だいたい、米国オールスターキャスト総出演なのに、必ずしも顔を知らなかったりするのだから。ニュース見ないとだめだね。
でも、この映画はそういう人たちを対象に作られている。米国でいえば選挙に行かない人たち。政事に興味なし。職なし。十分な教育を受け損なっている人たち。様々な理由(人種とか、出自とか、思想信条とか、いろいろ)で米国にいながら米国から閉め出された人たち。
ムーアによれば、そういう人たちの方が米国では多いらしい。多数派意見が反映されない民主主義。
(以下多少ネタバレあり。)
そもそもジョージ・ブッシュは民主主義によってさえ選ばれていないのだ。そこでは多くの選挙人登録者が抹消されるという法治国家としては考えられないような工作がなされていた。
ちなみに、あのヒットラーですら民主的な選挙で選ばれているのは周知の事実である(まあ、いちがいには比べられないが。国民を構成する人たちの違いというのは無視できない)。
前半では腐敗政治が徹底的に暴かれている。ここでは映画オタク的な、あるいは学者的な反論は意味をなさない。なぜなら政治から閉め出された、政治的弱者に向けてこの映画は作られているからだ。重箱の隅をつつくような批判をしても全く意味をなさない。というか、映画を見る眼力を疑わざるを得ない。年間五本映画を見ることをノルマにしている私にだって分かるようなことが分からないなんて!
今回、ムーアの露出はかなり少ない。後半は戦争が始まってから今(映画を撮り終えるまで)に至るまでの状況が描かれている。
最初、戦車に乗ってCDをガンガン聞きながらゲームのように戦争をしていた兵士たち(『地獄の黙示録』のあの場面みたいだね)。それが、フセイン政権打倒後、ほとんど神経衰弱に陥っていくように見える。「人をひとり殺すごとに魂の一部が削れていくようだ」そしてイラク人に対する虐待。
一方、アメリカに苛立ちを募らせていくイラク人たち。このあたりの事情は日本にいる私たちはよく知っているので、書く必要もないだろう。
アメリカ兵の多くは貧困層なのだが、負傷した兵士たちは治療はされるがそれだけだ。そして、兵士たちに支給されるべき給料その他はどんどん削減されていく。それらの財源はもちろん税金なのだが、その多くが癒着した政財界に流れ込んでいく。その一部にビン・ラディン家が食い込んでいるわけで、すべての空港が閉鎖されたあの何日かの間に出国を許されたのは彼らとその関係者だけだったのだ。
それどころか(いつのことだか忘れてしまったが)タリバンの幹部と米国政府関係者が会見したことがあったという。いったいどうなっているんだ?
あと、アルカイダが米国に向けて大規模なテロ攻撃を仕掛けるという情報をFBIは手に入れていた。だがその情報は握りつぶされた。なぜだ?
そして911の第一報がジョージ・ブッシュの耳に入ったとき、かれは子供と一緒に絵本を読んでいたのだが(きちんと映像が残っている)、なぜ彼はそれから七分間(だったと思う)もそれを続けたのか。子供たちを驚かせてはいけないとでも思ったのか?国家的危機が生じていたというのに?
息子が兵司であることを誇りに思うと語っていた母親は、息子の死後、嘆き悲しみ、何が息子を殺したのかを知ろうとした。息子からの最後の手紙には「あのバカを再選させないでくれ」というようなことが書いてあった。
彼女は最後にホワイトハウスに向かい、考えていたよりも苦しいという。そしてホワイトハウスを見据える。
戦争は最終的には個人レベルにまで還元されてしまうのだ。言うまでもないことだが。
ムーアは、兵司が戦うのはどうしても戦う必要がある時に限られる、という。イラク戦争は、根拠も何もない、ただの侵略戦争だった(ブッシュ政権ができた頃、政府関係者はイラクには大量破壊兵器を作る能力もないし、戦争をするだけの余力もないと言っていた。結果的にそれは事実だった。あのとき大量破壊兵器の査察を無理矢理終わらせてまで戦争を始めたのはなぜか?)。
話がややこしくなってしまったが、ムーアは要するに「犯人」に関わる重要参考人を出国させておいて、その矛先を何の関係もないイラクに向けて大量の人命を失わさせてしまった、ということをいいたいのだ。まったく無意味な、兵司やイラク人たちの死。
イラク戦争の頃のこと、今年の春の日本人人質事件のことを思い出し、そして為すすべもなく駐屯を続ける自衛隊のことを考えると、苛立ち、怒らずにはいられない。
仕方ないので我々が住んでいる国の首相をこき下ろして少しは気持ちをなだめようかと思う。彼は「政治的に偏向している映画は見ない」と言ったそうだが、狭義で偏向している映画はたくさんあるし(彼も当然見ているだろう)、広義に偏向していない映画なんてこの世に一本もないのだ。なぜなら、どのような映画を作ろうと、その時代や場所において透明な枠組みに強制的に、あるいは無意識にはめられてしまうからだ。所詮彼はノミの心臓の持主ってことだろう。ブッシュに気を使ってるってのはそういうことだろ?
あと、映画を一度見たきりで全部覚えられている訳じゃないし勘違いしているところもあるので、そういうところは勘弁してね。仕方ないもん。頭悪いし(ごめん、早速勘違いしてたところ直しちゃったよ)。
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つヨ氏の感想の方が簡潔で要点を付いてるね。リスペクト。
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