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2004.08.10

ドリーマーズ

 1968年の五月革命(これって本はたくさん出てるんだけど、詳しく解説している日本語のウェブサイトがないのはなぜ?常識だから?)前夜、アメリカからフランスに留学してきたマシュー(マイケル・ピット)が、美しい双子の姉イザベル(エヴァ・グリーン)と弟のテオ(ルイ・ガレル:映画監督フィリップ・ガレルの息子。若き日のシド・バレットと何となく似ている)と出会い、彼らの両親が休暇を取っていなくなったアパルトマンで同居生活を始める。

(以下、ストーリー的にはネタバレしてると言えるかもしれませんので注意してください。)


 三人とも映画フリークで、「これはなんの映画か?」というようなジェスチャーをして当てさせるというようなゲームを始めるのだが、それは間もなくエロティックな色彩を帯びるようになる(罰ゲームでイザベルがテオにデイートリッヒの写真を見ながらオナニーさせるとか)。

 テオはイザベルとは「一卵性双生児だ」と主張する。もちろんそんなことはあり得ないのだが、テオにとっては、あるいはイザベルにとっては彼らは一心同体の存在で、寝るときも同じベッドで裸で抱き合うようにして寝る。

 もしもそのことが両親にばれたらどうする?とマシューがイザベルにしつこく詰問すると、そのときは自殺する、と答える。

 マシューは罰ゲームでイザベルとキッチンでセックスする羽目に陥る。イザベルはさっさと服を脱ぎ全裸になり、それからテオと二人でマシューを裸にする。パンツを降ろすと、テオの部屋でくすねたイザベルの写真が出てきた。

 セックスが始まると、テオはイザベルの最初は苦痛に満ちた喘ぎ声が徐々に歓喜のそれに変わっていくのを聴きながら、フライパンにいくつも卵を落として目玉焼きを作る。イザベルは処女だった。テオがすべてであり、そこに初めてもう一人の人間、マシューが入り込んできたのだ。

 マシューはイザベルの恋人になり、三人のトライアングルが完成する。イザベルを巡ってマシューとテオが険悪になることはないが、二人がセックスしているときのテオの心情は複雑そうに見える。

 また一方、マシューはテオとイザベルとの関係が、二人を大人にすることを拒んでいるのではないかと考えている。

 微妙で、幼稚で、無垢で、純粋。もちろん否定的な意味ではない。

 テオとマシューはフランスとアメリカの若者をそれぞれ代表しているように見える。二人は若者に見合った稚拙さで、煙草(それともマリファナ?)を吹かしたりワインを飲んだりしながら議論をする。外で何が起こっていようと関係なく。

 ある日イザベルがそんな二人を居間へと誘うと、布で作ったテントあるいは天蓋のようなものが作られていて、その中で、イザベルを中心として三人で寄り添うようにして眠りにつく。

 翌朝、両親が突然帰ってきて、家の中が滅茶苦茶で、居間の天蓋の中で全裸の三人が折り重なりように眠っているのを発見する(イザベルだけは他の二人と逆向きに横たわっている。)。両親は若者たちを起こさないように小切手を置いて立ち去る。見なかったことにするが、金には困らないようにという配慮だ。だがそれは大人の考えで、一人だけ目を覚ました無垢なイザベルはそんな配慮を理解できるわけもなく(あるいはしようとするはずもなく)、両親に知られたのだから死ぬしかないと考え、キッチンからガスのホースを引いてきて、天蓋の中で二人を巻き添えにして自殺しようとする。

 そのとき、窓ガラスが割れて、アパルトマンの中に何かが飛び込んできた(イザベルは街が家の中に入ってきた、と言った)。テオとマシューも目を覚まして窓から外を見ると、窓の下は群衆でいっぱいだった。イザベルはガスのホースをキッチンへ持っていき(ガスを止め)、三人は服を着て外に出た。

 群衆と警官隊は距離を置いてにらみ合っていた。マシューはそこで群衆の誰かから火炎瓶を受け取る。テオは暴力はいけない、とそれを止めようとする。しかしマシューは横倒しになった車のところまでイザベルと一緒に走っていき、火炎瓶を投げた。

 テオは、群衆の中へと消えていった。

 火炎瓶の炎を合図にするようにして、警官隊が群衆に向かって突撃を始めたところで映画は終わる。

「行動」のマシューと「考える」テオ。ベトナム戦争をしていた米国と、映画オタクなのにテレビは見ないイザベルとテオ。イザベルはマシューとデートしたとき、電気屋のテレビに尋常ではないパリの姿が映し出されていたのを見てそう言った。そして振り返ると、二人の後ろにはバリケードが。パリには定期的にバリケードが築かれるのだ。

 とここまで書いてきたのだが、もちろんストーリーの一部に過ぎないし。興味のある向きは原作もあるのでそちらを読んでみるのもいいかもしれない。ちなみに脚本は原作者が書いている。

 映画そのものは、三人の関係のように、彼らの住むアパルトマンのように、そして五月革命やベトナム戦争のように複雑だ。さすが巨匠。

 ベルトルッチらしくぼかしが入りまくってるが、二十年前なら日本では上映できなかったかも。陰毛なんかはそのままだし。微妙に性器見えるし。

 エロティックだけど、ナチュラル。アパルトマンに閉じ籠もった若者たちを描くならそうなるのは必然。

 あと、イザベルの衣装が素晴らしいの。革命前夜なのに。キュート。清楚。エロティック。

 残念だったのは、劇場がすごく小さかったこと。なんかすごくまじめ臭い映画みたいな書き方してしまったけど、すごくポジティブで、見ていて素直にいい映画だなって思えるのに。

「解る人には解る」というほど難解でもないし、というか書ききれなかったけどサービス盛りだくさん。でもベルトルッチの名前を知ってるような人しか見ないのかな……

 公式サイト

 『ドリーマーズ』ギルバート・アデア、池田栄一訳、白水社(@bk1)

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 Black Pepper's Blogさんの感想を読んで、なるほど、そういう見方もあるのだなと思いました。それから、新宿電脳旅団さんの、セックスのシーンでぼかしいれて作品を台無しにしてしまったというのもそうかもしれないと思いました。もうそろそろぼかし無しでもいい時代なんじゃないかなって。

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