『THE PINK FLOYD & SYD BARRETT STORY』(BBC 2001,DVD)
(発売・販売:ナウオンメディア株式会社)
いかにもBBCらしい手堅いドキュメンタリー。シド・バレットの熱狂的なファンなら先日紹介した『クレイジー・ダイアモンド/シド・バレット』と共に手元に置いておきたい。
あるいは、シド・バレットのファンなのに動いているシドを見たことの無い人にも勧めてもいいかもしれない。
ただし、ライブ映像を期待すると少々がっかりすることになる。というのも、あくまでもドキュメンタリーなので、映像は切り刻まれて挿入されるに留まっているからだ。
内容的には本と重複するので割愛するが(もちろん本の方が情報量は圧倒的に多い)、"WISH YOU WERE HERE"の録音中にシドがスタジオに現れたというエピソードは、本よりもずっと生々しく伝わってくる。その理由は言うまでもないが、メンバーに直接インタビューしたからに他ならない。文字だけではどうしても伝わってこない機微が感じ取れるのだ。
同じ理由で、メンバーのシドに対する思いの大きさもよく伝わってくる。特にロジャー・ウォーターズとデイヴィッド・ギルモア。この二人はずっとシドの影を引きずって行くことになるのだろう。
ところで、このソフトに対する不満もある。というよりも、私たちはこれとは別のソフトをも欲しているのだ。
初期フロイドの映像は、私の知らないものも含めて結構あるようで、それらが断片的にドキュメンタリーに使われるのは正しいが、シドのファンが本当に欲しいのは、断片化される前の映像なのだ。たとえそれらの映像の保存状態が多少悪くても、途切れた不完全なものであったとしても。それらが可能なだけ収録されたソフト。
たとえば、"Interstellar overdrive"の映像は完璧に近いものが存在するし、このドキュメンタリーの冒頭では"Pow R. Toc H."の映像の一部が使われていたし、そのほかにも初期フロイドのメンバーが映っている映像がいくつも使われていた。それらがたとえ断片の寄せ集めのソフトであったとしても、高価だとしても、シドのファンは間違いなく買うだろう。
音源の方は出尽くした感があるので、映像の方もぜひ何とかして欲しいのだ。それが存在するのだから、不可能ではないはずだ。
ところで、ドキュメンタリーの中のデイヴ・ギルモアの証言で驚愕すべきものがあって、最後のソロ・アルバム、"BARRETT"に収録されている"DOMINO"という曲のヴァイオリン奏法(ボリュームペダルでギターのアタック音をなくす演奏法)みたいに聞こえるバックに流れるギターソロは、なんとテープを逆回転させてシドがギターを弾いたのだという。もちろん他の誰の耳にもテープを逆に回した音にしか聞こえない。でもシドにはそれがどうなっているか分かっていたらしい。シドに振り回されっぱなしで疲れ果てているギルモアやスタッフの中で、シド自身は自らのサウンドの追求を続けていたのだ……
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もしかしたら
わんdaふるわーるどさん
ちぇるしーほてるさん
の参考になるかもしれないので、トラックバックさせて頂きます。
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Comments
まいまいさん、トラックバックありがとうございます。
Pink Floydを好きと言いながら、すごく中途半端な聴き方をしていました。シドがいた時代の音をほとんど聴いたことがなかったんです。そのせいで、私の中でシド・バレットはずっと謎の人でした。もちろん存在や姿は知っていましたが、あえて深く知ろうとしなかったところがあります。
だけど、写真で姿を拝見するたびにその悩ましげな表情には惹きつけられていました。いまこそ、その謎を解き明かす時なのかもしれませんね。このDVDを発見したとき、そういうチャンスを与えられたのかもしれない、と思いました。
まいまいさんの解説もすごく参考になりました。私もぜひ手に入れようと思っています。
ところで、発売元のナウオンメディアに行ってみたら、なんと在庫切れで8/9以降の発送になってました。予想外に反響が大きかった、ということなんでしょうね。
Posted by: Saki | 2004.08.03 01:35 AM
Sakiさん、コメントありがとうございます。
私は逆にピンク・フロイドはそんなにたくさん聞いていないんですよね。
半分くらいでしょうか。
シド・バレットを知ったのは、サイケデリックな音楽を探している時期でした。
それまで知っていたピンク・フロイドサウンドとは全く違っていたので
最初は驚きましたが、あっという間に虜になってしまいました。
ブートレグを探し回った時期もありましたっけ。
しかし、在庫切れですか。シド・バレットのファンは案外多いのかもしれませんね。
Posted by: まいまい | 2004.08.04 08:31 PM