逢魔が時
午後はずっと眠っていた。
より正確にいえば、
午後一時頃から午後三時まではほぼ熟睡、
その後は眠ったり覚醒したりを繰り返していた。
眠りと覚醒の間には曖昧な領域がある。
何かが起きるのはたいていそういう領域においてだ。
午後五時頃。
たぶん夢、いや、確かに夢。
両親ともこの世にいないのだから。
父親と母親と私の三人でテレビを見ていた。
クイズ番組か何かで、
頭の中で考えていた答えが正解だったので、
「やった」と大声を出したら、
両親共に驚いていた。
ときどき柱時計で時刻を確認する。
時刻は覚えていないが、リアルとほぼ同じ、
夕刻だったような気がする。
その柱時計は昔住んでいた家の居間に掛かっていたものだ。
そこで少し目が覚めた。覚醒と夢が混沌とした状態。
たとえば窓の外から子供の声が聞こえてきたりするが、
自分のいる場所がどこであるか正しく認識できないような状態。
母親が寝ている私のまわりをぐるぐる回っている。
着替えを出しておいたから、と言う。
どこかへ出掛けようとするつもりらしい。
でも、母親は鋭利な刃物を隠し持っているのだ。
そのとき外からヘリコプターか飛行機か分からないが轟音が聞こえてきた。
それが私のアパートに墜落してくるのを助けるために私を連れ出そうとしているのか。
しかし、早くしなさいというだけで、私のまわりをぐるぐる回りながら、
鋭利な刃物で私を刺す機会を窺っているのだ。
まだ死ぬわけには行かないんだよ、と私は声に出さずに言った。
それに、これは死ぬような病気じゃない、ただ疲れているだけなんだと。
やがて覚醒が夢に打ち勝ち始めると、母親の姿は消えた。
それから起きあがるまで一時間近くも掛かった。
母親は私を二十歳くらいの年齢だと認識していた。
父親には現実に殺されかけたが、母親のことは比較的穏やかに見送っただけだ。
もしかしたら、あれは母親ではなく、去年の夏、
ベッドに横たわる私を見下ろしていた女かもしれないと思った。
ただ、殺そうとしているのか、それとも助けようとしているのか、
それだけが気に掛かる。
そのあと買い物をしに外へ出掛けたら、
月が出ていて、
まだしぶとく金木犀が匂っていた。
まだ休職に入って二日目なのだ。
今後の動向を見守りたい。
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